【寄稿】「選択的夫婦別姓」の導入は、日本社会の綻びを広げ、やがて解体していく岐路である

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寄稿者:しげぞう

夫婦別姓論議について、やりたい人がいるならやらせておけばいいじゃない、というような私とは関係がないけど容認論者が結構いたように思います。それに対して、「選択的」だからこそ問題なのだ、と断じたのは長谷川三千子先生でした。制度として「氏(姓)」の意味が根底から覆る、即ちファミリーネームとしての「氏(姓)」はそこで終わり、全てが個人識別コードとなり、親子の関係や更に深く突っ込んだ祖先との関係とは全く無関係の符号となる、これを革命的変革でないといえようはずがない、というご指摘でした。

家族は一つの社会的な基本単位であるということは、現憲法でも前提であり、それは国連の人権規約とも合致しているもので、何も日本だけの認識ではありません。
家族を弱めるベクトルは戦後一貫して貫かれてきたもので、「家父長制」に対するフェミニストの憎悪は、慄然とするものですが、果たして家庭や家族という単位にまでその憎悪が及ぶのか、というのが問題で、少なくとも結果としては及んでいると言わざるを得ないのではないかと思われます。

現在「家族」という絆が、所々綻びて、様々な痛ましい事件が頻発するようになりました。特に幼少の子供たちへの虐待などは最たるもので、日本の歴史の中でも特筆すべきほどの痛ましさではないかと思われます。自分の自由が束縛されるのを嫌って赤子を踏み殺した女性の事件が最近報道されていましたが、もはや鬼の所業です。

空前のブームとなっている『鬼滅の刃』の主人公竈門炭次郎と鬼となった妹禰豆子の物語は、強い家族の絆を描いています。その家族愛が物語の中心にあることは疑いありませんが、更に鬼となったかつての人の背後にある家族への思いを丁寧に描いているところも魅力の一つなのだと思われます。単なる勧善懲悪ではないが、鬼舞辻無惨という最初の鬼だけは純粋な悪と思われます。しかし彼については卑怯な臆病者というのが彼によって鬼にされたたまよさんの評言であり、結局自分のことしか考えない、自己中心主義者のことを卑怯な臆病者であると切って捨てているのです。こうした物語自体というよりも、それに共鳴する今の日本社会の状況自体が、家族というものの絆を切実に求めているということの証左と言ってよいのだと思います。

ただ、こうした人々は個人的な能力は高く、個人としては強力で、鬼殺隊は次々と斃れていきます。そして敗れそうになっても強い炭次郎を取り込もうとするしぶとさを見せます。そうしたギリギリのところで、最終局面を迎える訳ですが、最終巻が出たばかりなので、ネタバレは控えます。

翻って、別姓推進派の人々の代表格として福島みずほさんを取り上げるのは、彼らに取って心外であるかも知れませんが、事実としてこの運動の発端となり旗振り役として活躍してきた彼女のことを外して議論することは出来ません。彼女が「結婚は恋愛の障害ではない」とか「娘が18才になったら家族解散式をやる」だとか言ってきた事実も消えることはありません。そこから家族の絆を大切にする姿勢は微塵も感じられないと言って過言ではないでしょう。

政治勢力としては風前の灯となった社民党ですが、彼らの政治理念が、今や自民党の中に飛び火して燃え上がっているのが、今回の別姓論議再燃です。水面下でのロビー活動の成果なのでしょうが、最高裁判所でも夫婦同姓制の合憲が確認され、ほとんど議論としては終わっていると思われた今日突然のように浮上してきたのは、一つには自民党という政党が、保守政党ではなく、国民政党だからといえるかも知れません。つまり、国民のあらゆる要請に応えなければならないという姿勢で、たとえ絶対的少数派であってもその訴えに耳を傾け、対策を講じるのが国民政党としての役割だと考えているのかも知れません。しかしそれでは鵺(ぬえ)と同じで、首尾一貫しない化け物と差はありません。

今回浮上してきた「選択的夫婦別姓」論議に対して、積極的推進派と消極的容認派の区別なく論じるのはまず第一に間違っているでしょう。そしてさらに家族の絆を大切に思う大多数の国民の意思を踏みにじることはあってはならない選択です。

絆という字は、「きづな」と読みますが、「ほだす」とも読みます。「しがらみ」という意味も付きまといます。しかし、それは人と人との結びつきの両面であって、全ての絆を断ち切って人は生きていくことは出来ません。絆を断ち切って個々バラバラの個人を直接的に把握するやり方は全体主義そのもので、今技術的に不可能ではなくなってしまっているところに、今日的な問題が潜んでいるのかも知れません。

「選択的夫婦別姓」の導入は、日本社会の綻びを広げ、やがて解体していく岐路として歴史に刻まれることになるでしょう。そのような未来像は誰も望んでいません。

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