学術会議をこう見る⑥『二者択一を迫られる学術会議』【資料・赤い巨塔(1970年)】

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二者択一を迫られる学術会議

一橋大学名誉教授(1970年当時) 田上穰治

田上穰治 - Wikipedia

学術会議を会員選挙の実情からみれば、自然科学の部門はかなり激しい競争であって、また規則違反の選挙運動の事実もみられるのに反し、社会科学部門は、立候補の数が次第に減少し、無競争に近いものもある。これは前者が比較的に多額の研究費の配分と、この配分がさらに民間の研究費の誘引となる事情を伴い、その結果、各研究グループが競争して候補者を推薦し、この配分に与るに努力することによるが、後者にはこのような事情がないためである。三年ごとの選挙には、選管の検印のない違反文書を配布し、投票用紙を不正に交付を受け、選挙参謀が代筆投票するような噂があり、訴訟で争われたことがあるが、学術会議の選挙管理委員会には強制捜査権がなく、公職選挙法も適用がないので、違反者の選挙権、被選挙権の停止、当選無効などの形で責任を追及することができず、ひたすら学者の良識を期待するほかない情況である。

科学者の選挙のように、選挙権者が少ない場合には、知人関係を通じて常時の運動により当選できることが多く、とくに候補者が特定の組織に属し、その推薦を受ける場合には、当選が容易である。参議院の全国区の選挙で全国的な団体が当選者を確保できることと似ているが、一般の学者は選挙のような政治運動に無関心であるから、熱心な一部の組織が当選者を多数獲得して、学術会議そのものを支配することは容易である。その結果、組織外の選挙権者に立候補の熱意を失わしめ、また学術会議の主張そのものが特殊な傾向をもつようになる。各種の組織が対立し、いずれも過半数を獲得する機会が均等ならば、選挙制度も意味があるが、特定の組織が選挙の結果を左右する現状では、中立の当事者が減少するから、選挙制度に疑問がある。

昭和二八年の行政審議会においても、学術会議が政府の批判に終始し、特定の政治的傾向をとるものとして、総理府の機関の地位にあることに疑問をもち、総理府の機構の簡素化に伴って、国庫が補助金を出すことを条件として、政府機関から外すことを答申している。

政府の政策により学問研究の中立性を侵すことは、憲法の保障する学問の自由に反し、科学技術基本法の制定にあたって自然科学偏重の傾向に強い批判が加えられた。けれどもこのため、学術会議が国の機関でなければならないとする理由はないのである。ただ民間の資金に乏しいわが国で、国庫の補助――補助金に伴う政府の規制、いわゆる紐付きとなることなく――は必要であるが、国の機関として会員に特別職の国家公務員の資格を認める理由はない。むしろそれは、学術会議の自由な発言力の桎梏(※しっこく・「桎」は足かせ、「梏」は手かせの意味)となり、本来の使命と矛盾する感じさえある。将来は、選挙制度を改めて科学技術会議または学術審議会に近いものとするか、あるいは政府批判の立場を堅持して民間の団体に移行するか、の二者択一を迫られることになろう。

 

(赤い巨塔 ―「学者の国会」日本学術会議の内幕 時事問題研究所編,1970年より)

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