オカルト・トンデモ本に推薦文
鳩山由紀夫の名がオカルト業界の広告塔として重宝がられていたことは、『知られたくなかった2012創造説』（2009年）という摩訶不思議な単行本の帯に推薦文を寄せていることからもうかがい知れる。女性向け風俗求人誌『てぃんくる』を出している「しょういん」という出版社から刊行されたその本の著者名は「地球防衛軍」。内容は――西暦2012年に、「ある想像を超えた意志」によって滅亡に見舞われようとした人類が最後の望みを託した“地球防衛軍”の、地球救済の旅の記録を綴った「衝撃のノンフィクション」（！）なのだそうだ。さすがの鳩山も帯文では「宇宙のメカニズムは科学的に解明できていないことが大半です。説としては興味深い一冊でした」と記すにとどめている。
手の甲からダイアモンドが？
一方の幸夫人は、オカルト誌ではぐっとメジャーで老舗でもある月刊『ムー』（学研）に、俳優・梅沢富美男夫人の池田明子氏とのコンビで「ミラクル対談」（2004年9月号～2008年9月号）を連載していた。このコーナーは、幸夫人と「フィットセラピスト」（植物診療師）の肩書をもち池田氏が毎回、ゲストを迎えて「不思議な体験」を聞くというもので、連載最終回は、それぞれの夫、つまり鳩山由紀夫と梅沢富美男がゲストであった。
この連載でも、夫・由紀夫の「入浴中のマントラ」のエピソードが紹介されている。夫人によれば、由紀夫はかなりの長風呂で、夫妻にとって風呂場は精神のバイブレーションを整える神聖な場所であるという。そういえば、由紀夫が総理大臣に就任し首相公邸に引っ越しの際、幸夫人が「（前任の）麻生さんの入ったお風呂に入りたくない」という理由で、約1000万円をかけて風呂場を改修したという噂があった。国会でもこの件に関して追及があったが、結局うやむやな答弁で終わったと記憶している。これに関しても、単に麻生氏を嫌っているというより、もっと霊的な意味合いをそこに感じるのだ。おそらく、この夫婦ならば、「湯舟を通して麻生さんのネガティヴな波動を受けてしまう」ぐらいのことは言いそうである。
「ミラクル対談」はまさにそんな幸夫人の真骨頂。かっ飛び発言の連発である。
たとえば、天河神社に参拝に出かけたとき、彼女は金色の雨が降ったのを見たと語っているのだ（2004年9月号）。ときどき妖精も見えてしまうらしい。色つきの雨は、典型的なLSDのトリップのヴィジョンだが…。ナチュラルでこれなら、スゴイの一言である。
また、同じ対談の中でこのようなことも語っている。
《（註・気功の練習中）メンバーに少林寺拳法の先生がいらして、その先生が屋根を突きやぶって上にのぼっていきそうだったので、皆で足を押さえたりしているときに、気がついたら私の右手の甲にダイヤが出ていたのです。（中略）皆さんもびっくりしていましたが、「みんなの気でダイヤをもっと大きくしましょう」と意見が一致して、気を送っているとだんだん大きくなっていくんです。》
人間が宙に浮かんだり、手からダイアモンドを出したり、そのダイアモンドに「気」を送って大きくすることなど、地球上の物理学でありえるわけはないじゃないか、などと野暮なことはこの際、言わんでおこう（ちなみに、手の中から指輪や腕時計を出現させる“物質化現象”で知られた人物にインドの聖人サイババがいるが、鳩山由紀夫は彼のファンで、いつも内ポケットに写真を入れて持ち歩いているという）。
この幸夫人の発言を読んで真っ先に頭に浮かんだのは、ビートルズのトリップ・ソング、『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド』（Lucy in the Sky with Diamonds=頭文字を取るとLSD）だ。タイトルにもなったルーシーは、実在の少女で、ジョンの息子ジュリアンの友達の宝石商の娘だったという。ジュリアンが描いた、「ルーシーがダイアモンドをもって宙に浮かんでいる」絵に、インスピレーションを受けて書き上げたのが、ママレードの空や新聞紙のタクシーが出てくる一連のシュールな歌詞である。
【映画『イエロー・サブマリン』より】
(2021.08.11)上記動画が削除されてしまったため別の動画でどうぞ
これはまったく偶然だが、まだ学生だった由紀夫と同棲を始めた幸夫人は宝石商に勤めて、若い愛人を物心両面でサポートしたという。
心優しい年上の女（ひと）はきっと万華鏡の瞳をもっていただろう。
夫人の手の甲から出てきたダイアモンドは「みんなでわいわいやっているうちになくしてしまった」のだそうだ。
(FIN)
